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【コラム】技術革新と近未来のシナリオ

情報経済事情

大西 昭郎

  • 職位:
  • 特任研究主幹
  • 研究領域:
  • 医療政策、ヘルスケアのイノベーション、サイバーセキュリティ政策

2019年7月12日
機械振興協会経済研究所 特任研究員 大西 昭郎



1. はじめに

 ここでは、最近参加したサイバーセキュリティ研究会での話題に触れながら、ますます加速しつつあるネット技術やAI、そしてビッグデータなどの動向についての所感をのべてみたい。

2. 技術革新の加速

 1990年代から本格化したインターネットの普及は爆発的に進み、およそ30年の時を経て、全人類の53%にいきわたっている(注1)。インターネットは地球をほぼ覆いつくしている。いまやそれにつながっているのは人類だけではない。ペットの動物にチップをつけたり埋め込んだりすることもあるほか、工場の機器や自動車などのモノまでがネットにつながっている。IDCの報告書によれば(注2)2020年には2000億個の機器がネットワークにつながり、様々に利便性が高まると期待されているとのことだ。ネットワークの発展は新しい技術の開発や産業の発展を促し、ビッグデータの集積や人工知能の進化も進み、今や人々の生活に欠かせないインフラになっている。自動運転やロボット、AI、空を飛ぶ車など、SFの世界で語られていたことが連日ニュースとして取り上げられる時代となった。ただし、そのインフラになっているインターネットそのものは万全なセキュリティを備えているものではない。ユーザー側が必要な備えをしていることが求められる。

3. 何が起きているのか

 夢のように思える進歩の一方で、にわかには信じがたい状況も生まれている。例えば、ハッキングなどによるシステムやウエブサイトへの攻撃。ほとんどすべてのコンピュータやスマホはネットに接続しているが、接続したことがあるコンピュータのほぼすべてが、何らかのネット上の攻撃を受けているとのことだ。また、ブラックな情報のやり取りが行われるネットのダークサイドとも言えるダークウエブの世界では、プライバシー情報やハッキングツール、ランサムウエア、サイト攻撃のツールやサービスまでが安価に取引されている。こうしたマーケットがあるということも考えれば、そうした状況にあることを察することは難しくない。もちろん攻撃を受けているシステムがすべて被害にあうわけではないが、心配なのは攻撃を受けているにもかかわらず、そのことが発覚するまでに半年近くの時間を要し、被害があった場合には復旧に平均で2か月以上かかるのが普通であるということだ(注3)。被害を受けていることが分かったとしても、必ずしも公表されるわけでもないだろうから実態の詳細はわからないが、この状況を理解しているネットユーザはいったいどの程度いるのか、ということも心配な点である。どのくらい対策を講じている企業や個人はあるのかもわからない。インターネット上での経済活動は発展を続けているものの、リスクの増大も加速しているといえるだろう。
 情報技術の発展はネットの普及だけではない。もちろんネットの普及がその土台の一部であるが、膨大なデータを瞬時に処理するコンピュータの情報処理能力の進歩とも相まって、画像処理や自然言語処理、深層学習などを活用した人工知能の実用化が進み始めている。2014年にオックスフォード大学のオズボーン准教授らが著した「雇用の未来」によれば表1に示した仕事は10から20年後にはコンピュータにとって代わられてしまうという。

野村総合研究所(2015年12月2日)ニュースリリース「日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に」により作成
野村総合研究所(2015年12月2日)ニュースリリース
「日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に」により作成。



 こうしたAIやロボットによる人の仕事の置き換わりは、日本のように人手不足が予想されるような社会では朗報にも聞こえるかもしれないが、AIやロボットに依存してしまうのも不安な気がする。インターネットの普及がサイバーセキュリティの懸念を惹起したことを思えば、どこまで革新的な技術に頼って良いのかというのは未知といっていいのではないか。
 IoTの進展は、膨大なデータを生みだすことになる。ビッグデータという言葉がよく見かけられるようになったが、これまでに蓄積されてきたデータと、今後IoT機器を通じて集積されていくデータとを合わせると膨大な情報になる。そこには個人のプライバシーにかかわるものも含まれる。近年、犯罪捜査には監視カメラの映像解析が大いに役立っているが、これらのカメラもIoTの一部である。コンビニでは個人の顔情報を支払いの際の認証に使うという構想も進んでいる。お財布の中身の情報と個人の顔認証がデータとして紐付けられることになる。日常生活の活動記録やヘルスケア関連データもデジタルデータとしてクラウドに保存されていく。ここでもセキュリティの心配が頭をもたげてくる。これらのシステムを安心して使えるようになるまでには様々な課題が見つかり、また、対処がもとめられていくことになるだろう。

4. 20年後30年後にはどういう世界になるのか?

 未来は明るいと信じたい。しかし、実際のところ、20-30年後に世の中がどうなっているのかについては、時代が進むにつれてシナリオのバリエーションは増えているように思える。テクノロジーの進化については、経済や社会のありようを大きく明るい方向に変える要素と、これまでの社会のインフラを大きく覆してしまう可能性もあり得るだろう。人工知能はいずれ人間の脳の働きを超えてしまう時期が来るとの説がある。確かに、ネットを通じて世界中で発生する膨大データを処理し、ディープラーニングを繰り返すことで人間が解読できないロジックやアルゴリズムを獲得し、情報の解析とそれに基づく判断を繰り返していくことになれば、AIが世界征服をし、人間を支配するというSFのシナリオは実現もあり得るかもしれない。今のペースでAIが成長を続けると2045年ころにその時期がやってくるという(注4)。ただ、未来のシナリオはそれだけではない。人類は今後、セキュリティやプライバシーの問題、さらにはAIのコントロールにもクレバーに対処していく可能性もあるだろう。AIは“ビッグマザー”になるとしても、あくまで良い方向で社会に奉仕してくれるかもしれない。

5. おわりに

 これから20-30年の間は、ここで述べた不安への対処を進めるために、人々の英知がどのように結集できるかがカギとなる。このことは技術革新が始まった30年前と実はそれほど変わらない。今から60年ほど前から、核戦争が起きて人類が滅亡するシナリオを回避するために、人類は知恵を絞ってきた。この努力は今も、そしてこれからも続いていく。いつの時代もよりよい未来を実現するためには、英知の結集が常に必要なのだ。


【注釈】

1. http://iphone-mania.jp/news-201799/によれば2018年時点では全世界の人口76億人のうち53%に相当する40億人がインターネットに接続しているとのこと。
2. https://www.emc.com/leadership/digital-universe/2014iview/internet-of-things.htm Vernon Turner(2014):The Digital Universe of Opportunities: Rich Data and the Increasing Value of the Internet of Things, EMC Digital Universe with Research & Analysis by IDC.
3. https://www.ibm.com/security/data-breach Ponemon Institute (2018): 2018 Cost of a Data Breach Study: Global Overview, Benchmark research sponsored by IBM Security.
4. Ray Kurzweil (2005):The Singularity is Near: When Humans Transcend Biology, New York: Viking.


【了】

2019年07月12日
No.5(2019年7月)

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