機械安全のための規格と法律、設計方法の紹介 詳細
設計ミス防止に対する品質管理のポイント【リニューアル】
品質管理とは消費者の要求する品質に適合する製品を作るために、企業の各部門が品質の向上と改善を行うことです。そのために図1に示すようにミスの撲滅と不具合を出さない品質管理が必要となります。この品質は以下の4つに分類されます。
- 1企画品質:商品企画段階で決める品質で、消費者が要求している品質を見極め、製品コンセプトに盛り込む品質です。
- 2設計品質:設計図、および作業の仕様書・手順書において規定された品質で、設計者が技術、製造、コスト、販売等を考慮して決めたものです。
- 3製造品質:実際に製造されたものの品質です。
- 4使用品質:消費者に製品が渡って、実際に消費者がその商品を使用したときの品質です。
このなかで、設計ミス防止(設計品質)に対しての品質管理のポイントは2つあります。1つ目は、ISO9000による品質マネジメントの対応です。2つ目は、人間係わるヒューマンファクターズの対応です。前者は企業における管理的、組織的な対応であり、後者は人間本来のミス防止への対応です。
図1 ミス・不具合を出さない品質管理
品質マネジメントシステム:ISO9000
ISO9000は、1987年にISOにより制定された「品質マネジメンシステム(Quality Management System)」であり、製品やサービスの品質を保証するための標準です。このISO9000の体系を図2に示します。このシステムの認証を受けるためには、下記の2点に対してISO審査機関の審査に合格する必要があります。
- 1品質保証や環境管理に関する企業のマネージメントシステムが構築されている。
- 2マネージメントシステムに基づいたマニュアルで現場(設計、製造、検査、購買、営業等)が運営されている。
さらに認証を継続するためには定期的な審査を受ける必要があります。
図2 ISO9000の体系
品質マネジメントシステムの実際
(1) 一般要求事項
ISO9001の要求事項に適合した品質マネジメントシステムを確立・文書化・実施・維持します。さらに、品質マネジメントシステムの有効性を継続的に改善します。そのため、以下の項目を実施します。
- 1品質マネジメントシステムのために必要なプロセスを図3に示します。このプロセスでは、要求事項に対して各部門の責任と権限が明確にされます。
- 2プロセスの運用と管理の両者が効果的であるために、必要な判断基準と方法を明確にします。
- 3プロセスの運用と管理を支援するために必要な資源と情報を利用できるようにします。
- 4プロセスを監視、分析および改善します。
- 5プロセスが計画通りの結果を得られ、継続的に改善を達成するため、関連文書に従い運営管理を行います。
これらのプロセス運営管理を、ISO9001の要求事項に従って行います。要求事項に対する製品の適合性に影響を与えるプロセスの外注はしない。ただし、外注を行う場合には、購買文書に技術的要求と管理要求を明確にし、管理を確実に行います。
図3 品質マネジメントプロセス
(2) 文書化に関する要求事項
品質マネジメントシステムの文書化の要求を達成するために以下の項目を実視します。
- 1品質方針と品質目標を全社CS品質改善活動計画書で表明します。
- 2ISO9001の要求事項に適合した品質マネジメントシステムを確立し、マニュアルで明確にします。
- 3ISO9001の規格が要求する「文書化された手順」を、品質マニュアルの関連文書として記載・運用します。
- 4各部門のプロセスの効果的な計画、運用および管理を実施するために、全社規定および個別規定を定めます。
この文書体系を図4に示します。
図4 文書体系
(3) 品質マニュアル
品質マネジメントシステムの適用範囲を明確にした「品質マニュアル」を制定し維持、管理を行います。品質マネジメントシステムで文書化された手順は、品質マニュアルに含めるか、下位の関連文書として引用します。
ヒューマンファクターズ
Meisterは、1971年に発行した著書「Human Factors、 Theory & Practice」により、ヒューマンファクターズに以下に示す要因と影響を示しました。
- 1機械と設備を有効に活用することに影響される要因
- 2システムを動作する上で、必要なスキルを有する人が必要になる、人的要因
- 3人が機械と設備を使用する際の行動と、それがシステムへ及ぼす影響
- 4働く人の行動、健康状態、やる気などにシステムがおよぼす影響
すなわち、ヒューマンファクターズとは人々の能力や限界に適合するように機械、設備、作業と作業環境を設計・改善する学問分野であると定義されています。
従来は、操作ミスによって起こされた事故原因をヒューマンエラーと呼び、誤操作した人間のミスとされてきました。しかし実際には、装置の使い勝手や作業環境の悪さなどにより起こった事故もあります。このような事故を防ぐために注目され始めたのがヒューマンファクターズ(ヒューマンファクターの集合体)という考え方です。不具合の再発防止のためには、「だれだ」の直接的防止(隔離、冗長、エラーの影響緩和、機械化、自動化)と、「なんだ」の要因の緩和(人の関与を低減)する2つの対策が必要となります。
機械の安全性を確保するためには、誤操作しにくい、また誤操作してもチェック機能が働くようなシステム設計が大切なのです。そのため、設計として取り組むべき項目を以下に示します。
- 1テクニカルアセスメント:人が機械と設備を使用したときのデータを収集・分析し、その行動を技術的な観点から評価・提言します。
- 2マン-マシンインタフェースに関する改善:作業者と機械や設備とのつながり具合を個別に改善します。
- 3職場環境の改善:職場で働く人たち全員参加による職場の改善運動。
- 4ヒューマンエラーの防止:これは、本書のねらいであり、次項より詳しく解説していきます。
- 5教育・訓練の支援と作業効率の向上:短時間の練習で熟練者と同様な仕事を初心者に可能とする教育・訓練手段の開発や、不慣れな作業者にもわかりやすい手順書を作成します。
設計ミスにしぼってみると、「設計の変更部分」、「相互確認部分」、「極性、方向性がある部分」、「ソフトウェア部分」などの潜在的なミスがほとんどです。これらのミスを防ぐために、次の3段階でチェックしましょう。
- 1セルフチェック:チェックシート等を利用して自分で確認
- 2チームチェック:設計審査を開催し、職場全体で確認―「第8回」参照
- 3アウトプットチェック:解析結果を上司が確認
しかしながら、設計ミスが起こってしまった場合は、図5に示すヒューマンファクターズを含めた設計を取り巻く全ての環境を検討し、分析を行い、ミスの再発を防ぐことが重要です。
図5 設計を取り巻く環境の分析
ヒューマンファクターズの分析
ヒューマンファクターズの分析にあたっては、エラーを誘発した要因であるPSF (Performance Shaping Factor)を分析・評価し、改善方法を導くことが必要です。ここで、PSFとは、作業上の判断・行動に悪影響を与える諸要因を指します。例えば、作業効率を阻害する要因、ヒューマンエラーのもとになる要因が挙げられます。
ヒューマンファクターの分析の流れを図6に示します。(1)まず、PSFを分析・評価して起こった不具合にヒューマンファクター要因があるかの識別を行います。(2)つぎに、この要因があれば、不具合の発生の経緯をバリエーションツリーで表します。(3)つぎに、不具合のPSFを4M5E分析、なぜなぜ分析等の手法を用いて分析・評価します。(4)最後に、分析結果をまとめて再発防止の対策を決定します。
図6 ヒューマンファクターの分析の流れ
パフォーマンスシェイピングファクター:PSF
作業上の判断・行動等に影響を与える諸要因がパフォーマンスシェイピングファクター(PSF:Performance Shaping Factor)である。これは、作業に悪影響を与える要因として、作業効率を阻害する要因、ヒューマンエラーの要因や、作業のミスを誘発する直接(悪)要因と、反対に作業効率を改善する要因、職場環境を改善する要因や、作業ミスを防止する間接(善)要因の2種類を考えることが重要です。ヒューマンファクターズに基づく問題解決が求められる場合には、必ず目標があります。その目標に目を向けたときに悪の要因に注意が向けられがちですが、これとは逆の善の要因にも目を向けることが大切であります。
ヒューマンファクターズを分析するためには、PSFは問題を解決のために事象を一定の基準に基づいて分類した際の、個々の区分であると同時に解決すべき対象でもあります。表1に、一般的なPSFの区分と項目を、間接要因の識別を含めて示します。
表1 一般的なPSFの区分と項目
(出典:ヒューマンエラー防止のヒューマンファクターズ)
区分 | 項目 | 間 | 区分 | 項目 | 間 |
判断上の負担 | 瞬時の判断 | ○ | 作業環境 | 温度,湿度,換気が不適 | |
同時に複数の判断 | ○ | 照明が不十分 | |||
経験に基づく判断 | ○ | 騒音大 | |||
結果の予測を必要とする判断 | 振動大 | ||||
具体的な判断基準がない | 作業場所の5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)が未達 | ○ | |||
経験によるイメージと実態のずれ | |||||
身体的な負担 | 長時間作業 | 作業場 | 作業空間が狭い | ||
精密さが要求される作業 | 作業場所が危険 | ||||
熟練を要求される複雑・高度な作業 | ○ | 作業場所の重複 | |||
身体に負担がかかる作業 | 作業対象への接近性が悪い | ||||
重筋作業 | 無理な動作や姿勢を要求される | ||||
心理的な負担 | 時間的な制約が厳しい | 防護服や安全装備が邪魔 | |||
厳しい(早く・完全)目標に迫られる | 組織・チーム | 作業場の雰囲気が悪い | |||
作業のミスが大きな損害となる | 作業チームのコミニュケーションが悪い | ||||
中断(手直し,やり直し)が困難な作業 | チームの構成が不適 | ||||
最悪事態が気になる作業 | チーム内での役割分担が不明確 | ||||
危険な作業 | 責任の所在が不明確 | ||||
同一作業の繰り返し | 工程管理 | 工程,工数の見積もりが甘い | |||
進み具合が遅い作業 | 作業工程が重複する | ||||
注意が逸れる要因がある | 作業の準備が悪い | ||||
他の用事により作業が中断される | 利用する設備、機器、工具が不十分 | ||||
検査・記録など事務作業が多い | 身体的要因 | 体調がすぐれない | |||
情報・確認 | 記録が不備で,情報が得にくい | ○ | 空腹、のどの渇き | ○ | |
作業の進捗状況を把握しにくい | ○ | シフトによる慢性疲労 | |||
作業結果のフィードバックをしにくい | 加齢による機能の低下 | ||||
指示・連絡 | 必要な連絡にミスや不足がある | 精神的要因 | 不安や心配事がある | ||
指示や連絡方法・内容が的確でない | ○ | 自信不足や自己過剰 | |||
指示や連絡方法のタイミングが悪い | 動機の低下 | ||||
指示や連絡がよく聞こえない | ○ | 人間関係の悪化 | |||
機器・工具 | 機器,工具,測定器が不適合 | 経験・知識・能力 | 作業に対する経験不足 | ||
工具,測定器の指示値が読みにくい | 作業の知識不足 | ||||
専用工具の種類が多い | 実技能力の不足 | ||||
作業対象の操作性が悪い | 危険,失敗に対する能力不足 |
ヒューマンエラーの分析
ヒューマンエラーの分析は、生じたエラーの要因を見つけ出し、要因相互間のいちづけとその重みを分析して根本的な問題を見つけ出すことです。問題点の解決策を見いだしたならば、再発防止策を策定、水平展開しさらに、客観的な評価基準(行動、言動、態度など)を設定し評価を行うことが必要です。 ヒューマンエラーに対しては、図7に示すように「不具合の発生」、「何が起きたか」、「どこで起きたか」を考え、「だれだ:ヒューマンエラーなのか」の他に「なんだ:外的要因なのか」を分析しその対策を考えることが重要です。ここで外的要因とは、前項で説明したエラーを誘発したPSF:Performance Shaping Factorです。
図7 ヒューマンエラーの対応(出典:ヒューマンエラー防止のヒューマンファクターズ)
エラーの要因であるPSFは、表1に示すように直接要因ばかりでなく間接要因も含め総合的に検討する必要があります。検討した要因を削除することは簡単でありますが、要因を抽出する初期段階で抜けてしまうと、改めて要因を探し出すのが難しくなります。さらに、図8に示すように実際の要因に対して、考えられるPSFがずれてしまう可能性があります。そのため、幅広い視野に立って要因を抽出すべきです。
図8 PSFの選定
(出典:ヒューマンエラー防止のヒューマンファクターズ)
バリエーションツリー
バリエーションツリーは、不具合発生に係わるヒューマンファクターを明らかにするために、Leplat & Rasussen(1987)により考案された手法です。通常通り作業が行われていれば、不具合は発生しません。しかし、不具合が発生した場合は、通常と異なる作業が行われています。バリエーションツリーは、これらの通常と異なる作業(変動要因と呼んでいます)を時間経過に沿って表したものであり、不具合の発生経緯をわかりやすく図示することを目的とした手法です。
バリエーションツリーでは、正常な状態(判断・作業)から逸脱したものを変動要因として探り、それを時間軸に沿って記述することで、どのように不具合に至ったかを図式化していきます。不具合は単一の逸脱から発生するのではなく、複数の逸脱が存在していることが多く、それらがどのように連鎖してきたかを明らかにすることにより不具合の原因を導き出していきます。
図式化されたツリーの中から、どこを除いたら不具合を防止できるかを考えるために、変動要因を除去したり、原因と結果からなる変動要因の連鎖を断ち切ることで不具合の発生を防ぐ箇所を明らかにしていきます。
バリエーションツリーを作成するにあたっては、不具合発生の記録や、当事者から必要な情報を得ることになります。そのため、はじめから原因を特定しないで、「通常の作業と異なったものはないか」を念頭において作業を行うことが重要です。このとき、表2に示すような5W1Hなどの方法を用いることが有効です。
表2 5W1Hの利用
5W1H | 調査のポイント | |
Who | だれが | 担当者、作業者、監督者 |
When | いつ | 時間、時期 |
Where | どこで | 場所 |
Why | なぜ(どんな目的で) | 目的、必要性 |
How | どのようにして | 方法、手順 |
What | なにを | 対象物 |
バリエーションツリーの基本形を図9に示します。図9は、不具合の発生経緯を図示的に表す中央部のツリー部と、ツリー部を説明する欄外から構成されています。
ツリー部には不具合に関連した部署ごとに、変動要因が時間経過により記述されています。時間は下から上に向かって経過しています。ツリー中の、太線で囲まれたシンボルが変動要因で、細線で囲まれはシンボルが通常作業を表しています。不具合の発生を防止できる変動要因を排除ノードとします。
図9の欄外左側が期間(日時)や時間、右側が変動要因の追加説明、下側が不具合の背景となる前提条件の説明でツリー部の補足説明となっています。
図9 バリエーションツリーの基本形
バリエーションツリーの作成手順は、
- 1通常から逸脱した状態(判断、作業、行動)を時間の流れに沿って各要因の横のつながりがわかるように並べます。
- 2関連する要因をandやorゲートでつなげます。
- 3コミニュケーションに関わる要因は双方向矢印でつなぎます。
- 4より詳細な説明が必要な要因には、欄外の追加説明に内容を記述します。前提条件は、ツリーの下部に変動要因に対応する番号を付記して記載します。
- 5排除ノードの選択:変動要因で、不具合事象の直接・間接的な原因になっており、これを排除することで不具合の発生を防止できる「変動要因を排除ノード」として選択します。
- 6ブレイク箇所の選択:不具合に至る変動要因の連鎖で、ある要因を断ち切ることで不具合を防止できる箇所を「ブレイク箇所」として点線で示します。変動要因を排除することが難しいが、その影響をなくすことで不具合の発生を防止するものです。
- 7不明箇所:分析をしていくと不明で疑問が残り説明ができない箇所が出てきます。このときは「当該変動要因に疑問符付を付け問題点を記述」します。不明箇所を後日再度検討することで対策に結びつくことがあります。
バリエーションツリーは、自動車、鉄道、航空機、食品、建設や宇宙開発など様々な分野での不具合やミスのエラー分析に用いられています。ここでは、宇宙航空研究開発機構(Japan Aerospace Exploration Agency, JAXA)の例を示します。
JAXAにおいては、人工衛星、ロケット、それらの搭載機器、地上における設備と機器の設計・製造・試験検査工程における安全・品質保証の管理基準である「安全・品質保証プログラム」において、不具合背後要因分析を「ヒューマンファクター分析ハンドブック(NASDA_HDBK-10)」を用いて実施しています。手順は、不具合・ミス・事故分析をバリエーションツリーで行い、その後の対策をm-SHELモデル、なぜなぜ分析などを用いて立案しています。宇宙開発のような大きなシステムではJAXA以外の複数の企業がプロジェクトに関与しているため、JAXAと企業間、企業間同士、それぞれの社内レベル(プロジェクト、設計、製造、試験と検査部門)、部内レベル(監督者、担当者、関連するメンバー)のツリーを作成し管理する必要があります。
検討例:ローリーの模擬的事故(図10)
※検討方法:事故に至る過程を通常以外の事象として記述することで事故原因を導き出す。
※ストーリー:ドライバーが出勤すると
- 1いつものローリーが故障していた
- 2他のローリーを使用した
- 3そのローリーは整備不良であった
- 4いつもの道路が渋滞していた
- 5他の道路に迂回した ⇒ その結果事故を起こした
図10 ローリーの模擬的事故(出典:ヒューマンエラー防止のヒューマンファクターズ)
4M5E分析
表3に4Mと5Eを行と列に配置した4M5E表を示します。この表を埋めていく形でヒューマンファクターを分析・評価していきます。そのため、要因の抽出に偏りがあることを見つけやすく、複数の対策案を示すことができる利点があります。
4M5E分析は、表4に示す4M要因分析により、4つのMで不具合の要因の分析を行い、次に、表5に示す5E対策分類により5つのEで不具合の対策を立てて表3を完成していく手法です。ここで、4つのMとはMan(人間)、Machine(機械、物)、Media(手段・方法)、Management(管理)であり、5つのEとはEducation(教育・訓練)、Engineering(技術・工学)、Enforcement(指導・徹底)、Example(事例・対策・規範)、Environment(作業環境)です。
分析は以下のステップで行います。
ステップ1:4M分析(要因分析)
- 1不具合事象に関する詳細な情報を入手し、その概要を表3の4M5Eマトリックスに記入します。
- 2不具合事象の要因を次の4Mの観点から分析し、表4(4M要因分析)に従って分類します。
4M Man:作業者の心理的および能力的な要因
Machine:機器・設備などの固有の原因
Media:作業者に影響を与えた物理的・人的な環境要因
Management:組織の管理による要因 - 3表3に、対応する区分の整理番号を付し、箇条書きで簡潔に要因を記述します。
- 4不具合事象から見落とした要因がないかチェックします。
ステップ2:5E分析(対策立案)
- 14M分析において抽出・分類した要因に対して表5(5E対策分類)に従って、対策を導き出します。要因1つに1つ以上の対策を示します。
5E Education:業務遂行のために必要な能力、意識向上のための方策
Engineering:安全性を向上させるための機器・設備、(設計も含む)方法の技術的な方策
Enforcement:業務を確実に実施するための強化・徹底に関する方策
Environment:物理的な作業環境を改善する方策 - 24E5Mマトリックスに、対応する区分の整理番号を付し、箇条書きで簡潔に要因を記述します。
表3 4M5Eマトリックス(出典:INET)
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表4 4M要因分析(出典:INET)
Man 作業者の心理的・能力的要因 | Machine 設備・機器・器具の要因 | Media 作業者に影響を与える要因 | Management 組織管理の要因 |
1.身体的要因 例:無理な姿勢での作業 作業位置 身体の機能の限界 | 1.設備・機器・器具 例:設備・機器・器具の故障 センサーの誤動作 修理中 | 1.作業環境 例:悪天候での作業 騒音・振動環境 高温・低温環境 | 1.組織 例:予算、コスト削減による安全管理不足 過剰なノルマの設定 |
2.心理・生理的要因 例:疲労、睡眠不足で作業に集中できない 先入観にとらわれた 無意識・忘却・先入観 | 2.設計・機能・性能 例:設計ミス 保護機能の不備 安全領域の不備 標識・警報の不備 | 2.コミュニケーション 例:事前ミーティングが未 マニュアルの徹底不足 作業時の連絡不足 トラブル情報の共有化未 | 2.規則 例:組織の指針・方針がない マニュアル、規定の内容が不十分 |
3.技量 例:作業に不慣れ 技能不足 | 3.品質 例:設備・機器・器具の老朽化 校正の未実施 | 3.作業条件 例:人員不足、勤務体制の不備 勤務条件が劣悪 | 3.作業計画 例:不適切な作業計画、工程設定 安全対策・リスク評価が未 突発・無理な作業 |
4.知識 例:作業に対する知識不足 作業内容の理解不足 | 4.物理的・化学的挙動 例:可燃ガスの発生 自然発火 | 4.現場状況 例:上司、同僚との人間関係 コミュニケーション不足 部署間の連携不足 | 4.教育訓練 例:教育訓練計画の不備 教育訓練体制の不備 従業員に対する指導不足 |
5.不正 例:故意による不正作業 不正作業の隠匿、黙認 | 5.不正 例:マニュアル外の作業の実施 不正な作業の隠匿、黙認 | ||
6.作業の実施 例:作業対象・順序の間違い 確認不足、整理整頓の不実行 | 8.組織要因・風土 例:ルール無視の状態化 業務遂行・日程優先 過去の経験の未反映 不都合な情報の隠滅 | 7.変更措置 例:計画変更の未徹底 作業の遅れの未反映 | 6.確認 例:確認手順の不備 確認体制の不備 |
表5 5E対策分類(出典:INET)
Education 業務遂行のために必要な能力、意識を向上させるための対策 | 1.知識教育 業務を遂行するために必要な知識の向上 対策例:講習会の開催、説明会の開催、教育用教材の作成、作業マニュアルの作成 |
2.意識教育 法令、マニュアルの遵守、不具合に適正に対応するモラルの向上 対策例:ミーティングの実行、講習会の開催、説明会の開催、教育用教材の作成 | |
3.実技 実務の遂行に必要な技量の向上 向上策:実地訓練、OJTの実施 | |
Engineering 安全性を向上させるための設計・設備の対策 | 1.機器・設備の改善 事故・トラブルの要因となった機器・設備の改善 対策例:人間工学的な配慮による改善、設計の改善(フェールセーフ、フールプルーフ、制御器を含む安全機能の多重化、機器・設備の改善) |
2.工程の改善 事故・トラブルの要因となったマニュアル、ソフトの改善 対策例:製造・検査・取扱い方法の改善 | |
3.基準の見直し 機器の安全装置警報レベルなどの設定値の見直し 対応策:判定基準の見直し、設定値の見直し | |
Enforcement 業務を確実に実施するための強化・徹底 | 1.規格化 業務内容を定型化し、業務の簡素化と手順の明確化 対策例:規程の制定と変更、作業のマニュアル化、責任の所在の明確化 |
2.評価・指導 業務内容の適正化とトラブルの原因となる作業の認識向上 対策例:作業内容の評価と指導、注意喚起 | |
3.危険予知活動 業務における危険個所の抽出と未然防止 対策例:危険予知活動の徹底、体調管理 | |
Example 具体的な事例を示す対策 | 1.の判事例 業務における危険個所の認識とトラブルの未然防止の意識の向上 対策例:模範を示す、安全対策の発表会、参考となる事故・トラブル事例を示す |
2.水平展開 共通性のあるトラブルなどの情報の共通化 対策例:データベースによる情報の共通化、職制による情報の周知徹底 | |
Environment 作業環境の改善策 | 1.作業環境の改善 業務に対する注意力の向上 対策例:適正な照明・騒音・温度・湿度の作業環境、作業に必要なスペースの拡充 |
※検討例:送風設備の一時停止
表6 4M5E表(送排風機設備の一時停止)(出典:INET)
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なぜなぜ分析
なぜなぜ分析は、不具合の原因を追究するとき、その原因として「うっかりした」などが推定された場合、さらに「うっかりしたのはなぜか」というように、なぜを繰り返すことにより原因を追究していく手法です。
何度も「なぜ」を繰り返すことにより、不具合事象の真の原因、さらには潜在要因までの抽出が可能となる利点があります。なぜなぜ分析の基本的な形を図11に示します。
図11 なぜなぜ分析の基本形
※検討例:ボルトが回らない
図12 ボルトが回らない
※検討例:電車のドア開閉確認用マイクロスイッチのステータス信号動作不良
図13 電車のドア開閉確認用マイクロスイッチのステータス信号動作不良